• 2026年7月23日

シェーグレン病(シェーグレン症候群)総説。原因・病態・新規治療薬の開発に関して。|御所南リウマチ膠原病どいクリニック(京都市中京区)

最近よく外来で、「目や口が乾く。調べたらシェーグレン症候群じゃないか心配で受診しました。」という患者さんがよくいらっしゃいます。(近年ではシェーグレン症候群ではなく、シェーグレン病と呼ぼうという流れになっています。)

最近は患者さん自身で自分の症状をしっかり調べられており、感心させられ、自分も継続的に勉強していかないといけないと改めて感じます。

そういった患者さんの一部には、乾燥以外の病変があったり、リウマチや全身性エリテマトーデスなど他の膠原病が合併していることも時折見られ、改めてシェーグレン病が乾燥するだけの病気ではないことが分かります。

ちなみに本日、7月23日は名前の由来となったヘンリック・シェーグレン博士の誕生日にちなんで、「世界シェーグレンデー」とされています。

せっかくですので今日はシェーグレン病に関する総説を紹介させていただきます。

(一般の方向けというよりは、シェーグレン病に関して専門的なところまでしっかり知りたい方や、専門家向けの内容になってしまいました。分かりやすいまとめに関してはインスタグラムなどで別に作成させていただきます。)

今回は1本目で疫学・病態に関して、2本目で今後の新規治療の期待に関して触れさせていただきます。

以下はAI要約を修正・追記したものです。

まずは病態に関して

A comprehensive review of Sjögren’s syndrome: Classification criteria, risk factors, and signaling pathways. Heliyon. 2024 Aug 15;10(17)

シェーグレン症候群とは?

「目や口が乾く病気」だけではない、全身の自己免疫疾患

シェーグレン症候群は、自分の免疫が涙腺や唾液腺を攻撃することで、目や口の乾燥を引き起こす自己免疫疾患です。しかし、現在では「乾燥する病気」というだけでは説明できないことが分かってきています。

実際には、関節痛や強い疲労感、微熱、レイノー現象、神経障害、間質性肺疾患、腎障害など、全身のさまざまな臓器に症状が現れることがあり、「全身性自己免疫疾患」と考えられています。

また、約半数の患者さんでは関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症など、他の膠原病を合併すると報告されています。診療では「乾燥症状」だけではなく、全身症状や他の自己免疫疾患の有無も含めて評価することが重要です。


どのくらい多い病気なのでしょうか?

シェーグレン症候群は中高年女性に多く、40〜60歳代で診断されることが多い病気です。患者さんの約9割は女性であり、男女比は約1:9〜20と報告されています。

日本では指定難病に登録されており、推定患者数は数万人規模とされています。一方で、軽症例や診断されていない患者さんも少なくなく、実際の患者数はさらに多い可能性があります。


なぜ女性に多いのでしょうか?

残念ながら、現在でも「これが原因」という答えはありません。しかし近年の研究から、遺伝的な素因に環境因子が加わることで発症すると考えられています。

まず、遺伝的にはHLAだけでなく、IRF5、STAT4、BLK、TNFAIP3など、免疫を調節する遺伝子との関連が報告されています。ただし、これらの遺伝子を持っているだけで発症するわけではありません。

さらに、環境因子としては**EBウイルス(EBV)やHTLV-1、C型肝炎ウイルス(HCV)**などのウイルス感染が注目されています。これらの感染によって免疫系が活性化され、自己免疫反応の引き金になる可能性が示唆されていますが、まだ完全には証明されていません。

また、患者さんの約9割が女性であることから、女性ホルモンも重要な要因と考えられています。エストロゲンの変化によって涙腺や唾液腺の働きや免疫反応が変化し、発症に関与している可能性があります。

つまり現在では、「遺伝」「ウイルス感染」「女性ホルモン」など複数の要因が重なって病気が発症すると考えられています。


最近の研究で大きく変わった病気の考え方

以前は、「リンパ球が涙腺や唾液腺を攻撃する病気」と考えられていました。

しかし近年は、それだけでは説明できないことが分かってきました。現在では、唾液腺や涙腺の上皮細胞そのものが、病気を積極的に引き起こしているという考え方が主流になっています。

正常な上皮細胞は涙や唾液を分泌するだけですが、シェーグレン症候群ではストレスやウイルス感染などをきっかけに活性化し、炎症を引き起こすさまざまな物質を放出します。その結果、T細胞やB細胞が集まり、慢性的な炎症が続いてしまうのです。

このことから近年では、唾液腺上皮細胞は単なる「攻撃される側」ではなく、病気を進める「主役」の一つと考えられるようになっています。



以下新規治療薬候補に関して。

Update on the pathophysiology and treatment of primary Sjögren syndrome. Nat Rev Rheumatol. 2024 Aug;20(8):473-491.

シェーグレン症候群の病態の理解は、この10年で大きく進歩しました

これまでシェーグレン病は、「免疫細胞が涙腺や唾液腺を攻撃する病気」と考えられてきました。

しかし現在では、涙腺や唾液腺の上皮細胞そのものが炎症を引き起こす中心的な役割を担う epithelial cell-centered disease(上皮細胞中心疾患) という考え方が提唱されています。


複数のサイトカインが病気を支えています

この炎症を維持しているのが、複数のサイトカインやシグナル伝達経路です。

現在、病態の中心として最も重要と考えられているのはType Iインターフェロン(IFN)とBAFFです。

活性化した上皮細胞や形質細胞様樹状細胞(pDC)から産生されるType I IFNは、JAK/STAT経路を介してBAFF産生を促進します。

BAFFはB細胞を活性化し、自己抗体の産生を促進することで慢性的な炎症を維持します。

さらに、IL-6、IL-17、IL-21、TNF-α、CXCL13などのサイトカインや、細胞内のJAK/STAT、NF-κB、PI3K/AKT、BTK、NLRP3インフラマソームなどのシグナル伝達経路も複雑に関与していることが明らかになっています。

つまり現在では、一つの分子だけが病気を引き起こしているのではなく、多数の免疫経路がネットワークを形成して病態を支えていると考えられています。

病態形成は、概ね次のような流れで進行すると考えられています。


遺伝素因・ウイルス感染
    ↓
唾液腺・涙腺上皮細胞
    ↓
TLR7/8・TLR9
    ↓
形質細胞様樹状細胞(pDC)
    ↓
Type I IFN
    ↓
JAK/STAT
    ↓
BAFF
    ↓
B細胞活性化
    ↓
自己抗体産生
    ↓
T細胞との相互作用
    ↓
慢性炎症・臓器障害

病態の解明から、新しい治療薬の開発へ

これまではステロイドや免疫抑制薬によって炎症を広く抑える治療が中心でしたが、病態形成に関わる分子が次々と明らかになったことで、「病態のどこを遮断すれば炎症を止められるのか」という考え方に基づいた治療薬の開発が進められています。

例えば、

  • Type I IFN経路を抑える
  • BAFFによるB細胞活性化を抑える
  • B細胞そのものを除去する
  • BTKやPI3KなどB細胞内シグナルを阻害する
  • CD40やICOSなどT細胞・B細胞の共刺激を阻害する
  • FcRnを阻害して自己抗体(IgG)を減少させる

など、病態のさまざまな段階を標的とした薬剤が臨床試験で検討されています。

       2024年時点での各種新薬の開発状況

病態経路(治療戦略)治療ターゲット主な薬剤主な結果(2024年時点)
Ⅰ型IFN産生の抑制TLR7/8MHV370開発中止
RNA(TLR刺激)RSLV-132疲労・QOL改善
Ⅰ型IFNシグナルの抑制IFNARAnifrolumabPhase II試験進行中
JAK1/2Filgotinib、Baricitinib、Tofacitinib高活動性患者で改善傾向
TYK2Deucravacitinib試験進行中
B細胞活性化(BAFF経路)の抑制BAFFBelimumab改善傾向
BAFF-RIanalumabESSDAI改善、ESSPRIは有意差なし
BAFF/APRILTelitaciceptESSDAI有意改善
B細胞除去CD20Rituximab主要評価項目で有意差なし
CD20+BAFFRituximab+Belimumab改善傾向
B細胞シグナル伝達の抑制BTKTirabrutinib主要評価項目で有意差なし
PI3KδSeletalisib組織学的改善、臨床効果は限定的
T細胞-B細胞共刺激の抑制CD80/86Abatacept主要評価項目で有意差なし(48週では改善傾向)
ICOSLPrezalumab主要評価項目で有意差なし
CD40Iscalimab静注群でESSDAI改善
CD40LDazodalibepESSDAI・ESSPRIとも改善
自己抗体(IgG)の減少FcRnNipocalimab、EfgartigimodPhase II試験進行中
免疫リセットCD19 CAR-TCAR-T細胞療法難治例で期待される治療


なぜ期待された薬がうまくいかないのでしょうか?

しかし、期待された薬剤が必ずしも良好な結果を示しているわけではありません。

例えば、B細胞を除去するリツキシマブや、T細胞とB細胞の共刺激を阻害するアバタセプトは、理論上は有望と考えられていましたが、大規模臨床試験では主要評価項目を達成できませんでした。一方で、BAFF/APRILを標的とするTelitaciceptや、CD40Lを標的とするDazodalibepなどでは、有望な結果が報告されています。

この違いの背景には、**シェーグレン症候群という病気の多様性(heterogeneity)**があると考えられています。

実際には、すべての患者さんで同じ免疫経路が活性化しているわけではありません。

例えば、

  • Type I IFNが強く活性化している患者さん
  • BAFF経路が主体の患者さん
  • B細胞活性化が中心の患者さん
  • T細胞異常が強い患者さん

など、患者さんごとに病態が異なる可能性が示されています。


今後は「個別化医療」が重要になります

シェーグレン病は一つの病気のように見えますが、実際には病態の多様性(heterogeneity)が非常に大きい疾患であることが近年注目されています。

このような背景から、現在の研究ではすべての患者さんに同じ薬を投与する時代から、病態に応じて治療を選択する時代へと移りつつあります。

そのためには、どの免疫経路が活性化しているかを評価するバイオマーカーの開発が不可欠です。

現在は、IFNシグネチャーやBAFF関連分子、自己抗体、唾液腺組織の遺伝子発現解析などを利用して患者さんを層別化し、それぞれに最適な治療を選択する**Precision Medicine(個別化医療)**の実現が期待されています。

今後は「シェーグレン症候群」という一つの診断名だけで治療を選択するのではなく、「どの免疫経路がその患者さんで優位に働いているのか」を評価し、それに応じて治療を選択する時代になる可能性があります。

感想

 あらためてシェーグレン病が「ただの目や口が乾燥する病気」ではなく複雑な免疫異常を基礎とする自己免疫疾患であることが伝わってくる内容でした。

 また新しい治療薬の開発も進んでいますが、既存の関節リウマチや全身性エリテマトーデスに対して使用されている薬剤の一部がシェーグレン病に対しても有効な可能性が指摘されていることも興味深い点です。

シェーグレン病自体が関節リウマチや全身性エリテマトーデスに合併しやすい疾患であり、それらの患者さんへの治療薬選択の際にも参考になる報告だと感じました。

また近い将来に、いずれかの薬がシェーグレン病自体への治療に使えるようになることが期待されます。

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